たかがリウマチ、じたばたしない。

2015年初めに不明熱で入院、急性発症型の関節リウマチと診断された中高年男子。リハビリの強度を上げつつ、ドラッグフリー寛解≒実質完治!を目指しています。

花粉症と関節リウマチとT細胞

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花粉症の季節が来る

 

東京の、大雪の翌朝のパッとした明るさは、台風一過のときと変わらない。

キラキラ白く輝く屋根の群れ、ジャーッと跳ね上げる自動車の群れ、ガリガリ削る雪かきスコップの群れ。

お祭りのようだ。きょう午前中は、ゆっくり2回に分け雪かきをしまくった。

 

ところで、まだ花粉の飛散は少ないが、熟練の花粉症患者に量はあまり関係がない。

夜になるとくしゃみがとまらなくなったり眼に違和感を感じるようになったので、今年も内科で抗ヒスタミン薬や目薬を処方してもらうことになった。

 

入院中、鑑別がすすみ自己免疫疾患の可能性が高まってきたころ、担当医に

「花粉症と関節リウマチは関係がありますか?」

と訊いた。

毎年悩まされていた花粉症は免疫のスギ花粉への過剰反応であると言われていたからだ。

担当医は

「そのような文献はみたことがありません」

と愛想もなく答えた。

膠原病専門外来に花粉症患者が来るとも思えないので、担当医にとってたいして関心が湧かないアレルギー疾患だったのだろう。

 

しかし免疫学などの研究者によって、自己免疫疾患であれ、花粉症、ぜんそくなどのアレルギー疾患であれ、過剰な免疫反応の仕組みの解明については古くから取り組まれてきた。

 

 

「“腸”が免疫の鍵だった」

 

これに関連して、NHKスペシャル「人体」第4集「万病撃退!“腸”が免疫の鍵だった」(1月14日)は、たいへん興味深かった。

www.nhk.or.jp

そのときのメモから転記すれば次のようである。

 

  1. 腸は免疫力をつかさどる臓器。腸は全身の免疫本部。
  2. 腸内細菌と免疫細胞(絨毛の内部)は、ともに腸の表面付近にいる。
  3. 免疫細胞の約7割は腸に配備。
  4. 腸の病原菌→免疫細胞が感知→殺菌物質を出す→病原菌撃退という仕組み。
  5. 腸は免疫細胞の訓練もしている(仲間あるいは敵として認識する訓練)→訓練後、戦力アップした免疫細胞は全身に運ばれ戦士となる。
  6. 免疫の暴走は腸内細菌の異常に原因があるというのが有力な仮説。
  7. 重症アレルギー患者→腸に異変→腸内細菌クロストリジウム属、ラクトバチルス属がほとんど無し。
  8. 多発性硬化症患者→腸内細菌クロストリジウム属、バクテロイデス属がほとんど無し。
  9. 共通するのは、クロストリジウム属が無いこと。これは免疫を制御する重要な役割を持っている。
  10. クロストリジウム属が無いとなぜ免疫は暴走するのか→Tレグ(暴走する免疫細胞を鎮めるブレーキ役)が少ない。
  11. Tレグは腸で生み出される。クロストリジウム→メッセージ物質→免疫細胞→Tレグ誕生→全身へ→暴走する免疫細胞を鎮める。
  12. 腸内細菌と身体がメッセージをやり取りして免疫力を程よくコントロールしている。
  13. クロストリジウムを増やすものは食物繊維(修行僧のアレルギー改善がヒント)。マウスの実験では、食物繊維の投与でTレグが増えた。
  14. 食物繊維の多い従来の日本型食生活では、腸内での免疫をコントロールする物質(酪酸、酢酸など)の生成能力が欧米人などに比べ大きかった。
  15. 多発性硬化症においてTレグを生成するメッセージ物質を投与する臨床試験が行われている。

 

 

宿主ヒトと腸内細菌の共生

 

消化管は、食物をつうじて体外と直接つながる構造をもっており、体表面を内側に巻き込んだもののようにみえる。その意味では身体の外側といえ、腸内細菌がいくら存在していてもバランスがとられている限りたいした違和感はない。

一方、内臓や血管や関節に病原菌が入り込んだら免疫細胞の働き(炎症、腫脹、発熱、疼痛、倦怠など)を頻繁に自覚することになるだろう。

 

面白いことにヒトの腸内細菌を無菌マウスに定着させても免疫システムは不完全にしか成熟しないそうである。

つまり腸内細菌による免疫制御は、ヒト固有のシステムがあるようなのだ。

宿主と寄生菌類は、太古から共生を積み重ねるなかで、動物種ごとに異なる共生システム(免疫制御にまで至る)を完成させてきたという

 

 

炎症の制御の分担をまとめると

 

「教科書」によれば、自然免疫は、好中球のように免疫応答の初期にただちに動員される古い免疫であり、獲得免疫は、特異的な抗原を認識し記憶できる新しい免疫である。

といっても、獲得免疫はなんと約4億年前からの、魚類以降の免疫でありヒトからみればすでに完成された生得的な免疫機構である。

問題は獲得免疫の記憶であって、これにより自己成分について反応しつづけると自己免疫疾患、病原でない花粉などに過剰に反応するとアレルギー疾患になる。

この免疫の発動は、獲得免疫、自然免疫相互に関与しあい制御しあうといわれているので一筋縄ではいかない。

 

炎症の制御を因子別、細胞別にまとめると次のようである。

因子とはリウマチ患者にはお馴染みのサイトカイン、メディエーターのことである。

 

<サイトカイン、メディエーター別>

●免疫促進系

IL-1、IL-6、IL-17、TNF-α、IFN-γ

●免疫抑制系

IL-10、IL-27、IL-35、TGF-β、PGE2

 

<細胞別>

●免疫促進系エフェクターT細胞)

Th1、Th2、Th17

●免疫抑制系(抑制性T細胞)

Tレグ(regulatoryT、Treg)、Tr1

 

 

免疫反応に介入する難しさ

 

NHKスペシャルでは、抑制性T細胞であるTレグに注目し、そのアレルギーや自己免疫疾患治療の可能性について紹介していた。

関節リウマチ治療は、すでにこの領域に入っており、生物学的製剤のTNF-α、IL-6阻害タイプやT細胞を活性化阻害するタイプ(オレンシア)が実用化されている。

 

それではTレグそのものの増加によるリウマチ治療法はどうなのだろう。

自己免疫疾患は、現象的には自己に対する免疫応答を抑制するT細胞(Tレグなど)と促進するT細胞(エフェクターT細胞)のバランスが破たんすると発症すると考えられている。

ところが炎症環境下では、抑制性T細胞が病原性のエフェクターT細胞に転換することがあるとの報告がある。

つまりTレグは、その環境によってエフェクターT細胞に変化していく不安定な細胞集団であって(これを可塑性という)Tレグの治療応用の際の、重要な留意点だそうだ。

また関節リウマチ患者の関節には、そもそも、抑制性T細胞にもエフェクターT細胞にもなりえるT細胞が多く存在しているという報告もある。

したがってアマチュアからみれば、外部からTレグを増やす治療をすれば関節リウマチが改善するとは単純には言えないように思える。

 

 

高繊維食について

 

腸内細菌が産生する多様な代謝物が免疫細胞や全身に移行することで免疫調節をしていることは疑いない。

自己免疫疾患、炎症性腸疾患、糖尿病、肝硬変、肥満、神経疾患など多くの疾患においては、腸内細菌叢の異常が観察され注目されているそうである。

(関節リウマチ患者の腸内細菌叢はどうなのだろうと、つい思う)

 

腸内細菌の代謝物(短鎖脂肪酸)に関するいくつかの発見は次のようである。*1

 

  1. Tレグの分化は、クロストリジウムの産生する酪酸(短鎖脂肪酸)が誘導している。
  2. 酪酸はIL-6の発現を低下させ、IL-10の産生を高める。
  3. 短鎖脂肪酸+ヒト腸管上皮細胞株で、TGF-βの産生が高まる。
  4. クローン病潰瘍性大腸炎患者では便中の酪酸濃度が低かった。
  5. マウスでは、酪酸濃度を高めるとTレグが誘導されて実験的大腸炎が緩和する。
  6. マウスに高繊維食を与えると短鎖脂肪酸濃度が上昇する。
  7. 高繊維食のマウスは、Th2により引き起こされるアレルギー性気管支炎の発症が抑制される。
  8. 酢酸を妊娠マウスに投与すると、仔マウスのアレルギー性気管支疾患が抑制される。
  9. 関節リウマチのマウスの腸管の酪酸濃度を高めると関節炎の発症が抑制される。
  10. 関節リウマチは、高繊維食で症状が改善し、食物繊維欠乏食で症状が悪化すると言われる。

 

アレルギーがあり、また自己免疫疾患の患者である者にとって、とても興味深い報告にみえる。

そして「不安産業」の代表である健康産業は、すでに食物繊維補助食品、黒酢、玄米酢、酪酸サプリなどいくらでも売り出している。

しかし、試験管段階、マウス段階、ヒト段階で結果も効果も異なる!わけだから、ヒトが予防・治療目的に摂取する場合にはよく注意しなければならない。

 

多くは意図的なダイエット食、粗食のせいで、タンパク質も脂肪も一貫して減少させてきた厚生労働省「国民栄養調査」)、血液の薄い、血管ボロボロの低栄養のほうが、日本ではよほど問題だそうだから、間食無しの高タンパク+高脂肪+高繊維食を心がけたほうが良いと思う。

人間の摂取量のキャパには限界があるのだから、結局、まんべんなく食べることを心がけることによって食べすぎ・偏食ともに防止されると気楽に考えたらどうだろうか。

 

*1:『腸内細菌による免疫制御』、長谷耕二(慶応義塾大学)、モダンメディア63巻2号、2017

http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/2017_02/005.pdf