ξ
近所の幼い子が、母親やお祖母ちゃんと外を歩いているとき
ワタシのような他人に出会えば
「こんにちわー!」と大きな声で誰よりも先にしゃべるのが習慣らしかった。
母親やお祖母ちゃんが、顔見知りとすれ違うとき
「こんにちは」と挨拶しているのを見て覚えたのだろう。
ワタシたちも「こんにちは」と笑顔で返すわけだから、人と会ったときの言葉として覚えたのだろう。
しかし幼稚園に入った頃から一変した。
しばらくぶりに会ったら、その子は怪訝な顔をして黙り
すれ違ったあと
「あのひと、だあれ?」
と、お祖母ちゃんに訊いていた。
お祖母ちゃんがなんと答えたのか聞こえなかったが
おぉ、おぉ、成長!
と歩きながらワタシは思った。
ξ
晴れた日に
近くのアパートのベランダを見上げると
フック式の虫よけが網戸近くにぶら下がっている。
きょうは、洗濯物や布団にさえぎられることなく、ポツンと虫よけが目立っている。
いいぞ、暮らしてる
いい、と思う。
昔の風鈴に似ている。
この季節の
風鈴の代わりの虫よけ。
ワタシの家にもある。
網戸に直接貼るタイプだ。
ワタシの知らない
広い庭と鬱蒼とした木立と日本家屋。
どこからともなく聞こえる風鈴。
それを味わいたくて、狭苦しいベランダに下げたことがあった。
しかし煩いのだ。
そよ風であろうが夜に吹けば煩くてたまらない。
二、三日で取りはずした。
狭い住まいでは、風鈴は灯りの下、指で鳴らしてみるもの。
なにか身辺を通り過ぎる<風>でも記述できたら、と思ったのだろうか。
夜、カーテンの外の
真っ暗な風を感じていると、いくらか強すぎる。
すぐに部屋のなかの無<風>に戻ることになる。
もう 夏。