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「ウェブはバカと暇人のもの」(光文社新書、2009)で初めて知った中川淳一郎氏が、「平成を彩ったCMの数々 ポリンキーや「ポポポポーン」など10選」という記事を書いていた。
氏が選んだテレビCM10選とは次のようなものである。
【2】あいさつの魔法(AC)
【4】クリスマスエクスプレス(JR東海)
【6】どうする、俺(ライフカード)
【7】花咲き生ビール 1995版(キリンビール)
【8】そうだ京都、行こう。(JR東海)
【10】ピコー(サントリー)
恥ずかしいくらい(仕事好きで?)テレビを観なかったせいか、このなかで記憶にあるのは【4】クリスマスエクスプレス(JR東海)、【5】キンチョール(大日本除虫菊)くらいである。
【4】のJR東海は、全国CMだったろうか。
全国CMでなければ、ワタシが放映当時、リアルタイムで観ていたかどうかあやしい。
あまりに有名になったので、のちに何かの番組で放映されたものを覚えていた可能性もある。
【5】のキンチョールの「お前の話はつまらん!」というのも岸部一徳と大滝秀治のかけ合いがはっきり浮かばない。
これもヒットしてのち、タレントか誰かがギャグ化したシーンを覚えていたのかもしれない。
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それにしてもJR東海のCMは印象的だった。
中川氏は次のように振り返っている。
このシリーズについては、1988年の深津絵里さんバージョンと1989年の牧瀬里穂さんバージョンが白眉として知られております。
しかしながら、2000年の星野真理さんが登場するバージョンに深津さんと牧瀬さんが「見守るお姉さん」的に登場するものも秀作です。
深津絵里版(1988)が素晴らしく、これで毎年のクリスマスエクスプレスのCMが期待されるようになったに違いないと思わせるほどだ。
ワタシには厚化粧の深津絵里が最初、誰だかわからない。
そばで動画を覗いていた妻が、深津絵里のファッションは、頭のてっぺんから足の先まで「超一級品」だと言う。
あの当時のCMだから当たり前と言えば当たり前だが、ショートなヘアスタイルから足先のブーツに至るまで、近頃見たことがないくらいオシャレにみえるということか。
そしてこのCMの極めつけは、新幹線から降りて来なかった(はずがない)彼氏の登場シーンの鮮やかさだ。
深津絵里でなくとも「バカッ!」と言ってみたくなるところに共感が集まる。
翌年の牧瀬里穂版(1989)も同じ流れだ。
今度は、遅れそうな牧瀬里穂のほうが派手なクリスマスプレゼントを抱え、駅構内を走り抜ける。
この映像の魅力は深津絵里の時と同じだ。
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しかし高橋理奈版(1990)、溝渕美保版(1991)、吉本多香美版(1992)になると
どこか力づくで、作り笑いをしているような印象を受ける。
深津絵里や牧瀬里穂のように自然体で済ましてみせる、というような感じがしない。
星野真理版(2000)になると、大きく空気が変わる。
薄暗い事務所から電話してきた彼氏は仕事が忙しそうだ。
時代に押しつぶされそうな気配や、愚痴る気配がチラと見えるようになっている。
広いフロアのあちこちで徐々に消灯が始まり、自分たちの一画だけが卓上スタンドのように照明が点いているシガナイ情景はいくらでも経験があるだろう。
どこで打ち切ってよいかわからないエンドレスの作業に、残っている幾人かの仲間に「オイ、飯でも食いに行くか」と声をかける、いつもの冴えない事務所の情景が浮かぶ。
ここでは女性は新幹線を待たない、新幹線に乗り込む。
1988版と1989版の深津絵里と牧瀬里穂が、なんか背後霊のように登場している。
深津と牧瀬は
「時代は変わったんだよね」
と言いたそうにみえる。
「そうだね!」
と答えたいくらいだ。
中川氏の記事を読んで、このクリスマスCMを久々に、懐かしく観た。*1