たかがリウマチ、じたばたしない。

2015年に急性発症型の関節リウマチと診断された中高年男子。リハビリの強度を上げつつ、ドラッグフリー寛解≒実質完治を目指しています。

リウマトイド因子陽性ならば関節リウマチなのか私論 ~ ベイズの定理

リウマトイド因子とは

 

膠原病の疑いのある患者には多くの抗体の検査が実施されます。

関節リウマチと診断された患者では、その約80%がリウマトイド因子陽性(+)だと言われます。

 

リウマトイド因子(RF)とは、なんでしょう。

抗体とは抗原(病原菌など)を攻撃し身体を防御するものです。

関節リウマチ患者のRF成分は、免疫グロブリンG(IgG)に強く反応することが多いと言われています。

IgGは、細菌、ウィルスなどに対する抗体であり、RFは抗体の抗体ということになり、このため免疫機能の異常を見分ける指標とされています。

RFはIgGという自身の成分に対し抗体となるので自己抗体と呼ばれます。

 

 

リウマトイド因子陽性ならば関節リウマチなのか

 

ところで関節リウマチと診断された患者の約80%がRF陽性とすると

逆向きに見て、RF陽性の人はどのくらいの率でリウマチ患者と診断されるのでしょうか。

リウマチ患者にとって、いつも気になる命題ですが、簡単には解けないようにみえます。

 

命題A:関節リウマチと診断される患者の80%はRF陽性である。

命題B:RF陽性の人の〇%は関節リウマチと診断される。

 

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上図から

命題Aは a / (a+b)

命題Bは a / (a+c)

で求められます。だから命題Aを眺めていても命題Bは解けません。

 

理屈では、関節リウマチ患者もRF陽性者もそれら以外も、必ず有限の集合ですから、a、b、c、dの数値(人数)は個別に求められます。

つまり観測さえすれば命題ABも解けることになります。

 

 

人間心理に合わないベイズの定理

 

一方、逐一観測しなくともいくつか仮定をおけばRF陽性の場合に関節リウマチと診断される割合を計算できます。

 

仮定1:

すでに知られているデータから日本の総人口の0.6%を関節リウマチ患者とする。

仮定2:

すでに知られているデータから関節リウマチ患者の80%をRF陽性とする。

仮定3:

RF基準値は、基準個体(健常人)でも5%は外れる範囲として設定されている。(ここでは圧倒的多数の基準個体に関節リウマチ以外の患者を含み5%はRF陽性になってしまうと仮定する。)

 

その時、命題Bの割合

=(総人口×0.6%×80%)/(総人口×0.6%×80%+総人口×99.4%×5%)

=(0.6%×80%)/(0.6%×80%+99.4%×5%)

= 8.8%

≒ 8~9%

 

これからRF陽性の人は、たった8~9%しか関節リウマチと診断されないことになります。

これは日本人全体にRF陽性の規模を拡大したので、分母となるRF陽性の人が非常に多くカウントされたから、ではありません。

式をみてわかるとおり、分子、分母の総人口は約分され消去されています。

人間ドック受診者数、健康診断受診者数と置いて求めても同様な結果となります。

 

これはベイズ統計学の)ベイズの定理を用いる問題であり

関節リウマチを発症してRF陽性である確率 P(A/Hiから

逆向きの、RF陽性の場合、関節リウマチが原因となった確率 P(Hi/A) を推定する問題

といえます。

これはリウマチ医が、RF陽性だけで関節リウマチと診断されることはないとする根拠として説明する計算でもあります。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 

しかし、これらの結果は人間が推論する時の心理に合わないと言われています。

心理学実験の成果によれば、(疾患は異なるが)同種の実験から推定すると

関節リウマチ患者の80%がRF陽性というのなら、仮定1、3を知らされていても

やはりRF陽性の80%くらいの人は関節リウマチと診断されるだろう

推論する被験者が最も多くなるようです。

 

ワタシたちがある傾向をもって推論を間違ってしまう理由はなんでしょう。

心理学でこの傾向の説明に用いられる代表的な理論はヒューリスティク(一種のバイアス)です。

これは、なぜ人は特定の「間違え方」をするのかということを説明する興味深いものですが、別の機会に考えようと思っています。

 

 

空間の濃淡、皴、歪みの存在について

 

ところで、ワタシたちの推論は本当は間違っていないのではないか、とも考えられないでしょうか。

 

ワタシは脳科学者と称する人物が、テレビ番組で人間には心理的なバイアスがあることを語って、ある特定の個人の選択、決断を推論してみせることにいつも不満を持っていました。

これはコインを投げて裏・表が出る期待値はそれぞれ1/2なのだから

特定の場面で特定の個人がコインを投げた時の、表が出る確率は1/2に決まっているのだと主張しているだけのようにみえます。

このときのやりきれない不満は、どうせこういう番組はオアソビだからと思って解消してきました。

 

実際には、コインは偏心していたり汚損、破損していたり歪んでいて裏がずっと出やすくなっていることがあるかもしれません。

まして生まれも育ちも異なり血も汗も体臭も異なる個人の選択、決断が、平均的なバイアスなどに大きく影響されるとは思えません。

むしろ特定の人間の仕出かすことは到底わからない、と考えるのがフツーであるように思えます。

 

言い換えれば、ワタシたち個々の心・身体という空間、心・身体を取り巻く空間は平均的ではない、均一・一様ではない、放射性物質が拡散した際のホットスポットのように

常に濃淡がある、常に皴がある、常に歪んでいる、とみなすのが現実に近いように思えます。

 

 

RF陽性の多くが関節リウマチである空間について

 

次のように考えてみます。

ネット上に公開されているある大病院のリウマチ膠原病内科の、2017年度の新規外来患者数は1000名強です。

そのなかにはリウマチ膠原病内科としては対象外となる疾患あるいは診断未確定とした患者も含まれています。

新規外来患者のうち関節リウマチと診断された患者数は約20%です。

 

この大病院という空間

自宅近所のクリニックの紹介状を握りしめてやってきた患者Cさんが待合室で順番を待っています。

あっちこっちの関節は赤く熱っぽいしRF陽性の検査結果も出ています。

「関節リウマチの疑い」で専門外来に紹介されてきたのです。

患者Cさんは、あーぁと思っています。

たぶん関節リウマチと診断される確率は高いだろうなぁと思っています。

 

もちろん同じような紹介状を持っていても、関節リウマチなんてバーチャンの病気でないかと、一向に心配しない人も少数いるでしょう。

 

この大病院の空間は明らかに関節リウマチ側に濃い皴があり歪んでいると考えられます。

上記の仮定1、3は次のように変更できます。

仮定1:

「新規外来患者の20%は関節リウマチである。」

仮定3:

「関節リウマチに次いで多いシェーグレン症候群、全身性エリテマトーデスのデータを参考に、新規外来患者の関節リウマチ以外のRF陽性率を20%とする。」

 

この時、命題Bの割合

=(20%×80%)/ (20%×80%+80%×20%)

= 50%

 

患者Cさんが懸念(推論)していたとおり、この大病院は、RF陽性の人はその50%もの人が関節リウマチと診断される空間でした。

なぜこういう歪んだ空間なのでしょうか。

それは、この大病院は、すでに関節リウマチや類縁の膠原病の「疑い」のある患者が集まった特殊な空間だから、といえます。

 

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これはささやかな事例ですが

ワタシは、(宇宙空間の密度の揺らぎのように)世界が均一・一様な空間ではなく、濃淡のある、皴のよった、歪みのある空間が寄せ集められて構成されているのだと考えてみた時

自分の心、身体、そして外部世界が俄然わかりやすくなってきたように感じています。*1